2019年5月18日土曜日

Novel in 2019 No.16 カゲロボ/木皿泉

2019.5.18

カゲロボ/木皿泉

  














 平穏な日常のリズムがふと崩れる。人生は思ったように進まないなんて誰でもわかっていながらも、いざその状況になればみなが戸惑い、落胆する。じゃあそんなリズムをまた平常に戻すための起爆剤のようなものは何かといわれたら、小説や音楽のようなエンターテイメントなものかもしれない。それ自体が僕らのそれを変えるのではなく、それを読み、聞いてケツを蹴ってもらい僕らが自ら変えていく。改めて感じることだが、日々の仕事はすべて誰かのためになっている。野菜を育てる農家、野菜を買取り店に並べる小売業、新鮮な野菜を調理し空腹を満たす料理人、空腹が満たされたトラック運転手が運ぶ荷物、その荷物を受け取った青年。その荷物の中身は、、。人はみな繋がる。すべてが無駄ではないと思いたい。

2019年5月6日月曜日

Novel in 2019 No.15 ノースライト/横山秀夫

2019. 5. 6


ノースライト/横山秀夫
  














  ノースライト、北の光り、つまり北からの採光の意味合いである。建築物においての北向きといえばアトリエだ。一日中、光の加減が少なく絵を描くのに適していると、以前インテリアを勉強している時に習った覚えがある。
   物語は建築家として光と闇の時代を生きながらえる青瀬を中心に展開していく。そこへ実在する建築家ブルーノ・タウトの視点や回想が絡み合い、物語に馬力が出てくる。建築やイスが好きな人にとっては非常に馴染みやすく、読み進めていくにつれ話の中へごく自然に包み込まれる感覚があるだろう。
    小説とは様々な事象や事柄を結びつけ、ひとつの物語を作り上げるものだが、この作者の手にかかると非常に緻密で継ぎ目のないごく自然な展開を見せる。一本の糸が別の糸と絡み、さらに他の糸と絡み徐々にごちゃごちゃになっていく。もうこんなのほどけないよと諦めかけた時、スーッと糸がほどけスッキリした表情を見せる。それは爽快な気分であり、読み手を満足させる最高の瞬間である。