2020年3月1日日曜日

Novel in 2020 No.5 人間/又吉直樹

2020.3.1

人間/又吉直樹

















  俳優の高倉健さんが以前テレビでこんなようなことを言っていた。「俳優は普段の生活を世間に見せてはいけない。役のキャラクターに影響するから」と。ただ、他人にも強制するような言い方ではなく、あくまで自分の中の規律として、そのように生活を営んでいるとのことだった。かっこいい真面目さだ。
 話は変わり、ピースの又吉さんとして、僕は又吉さんが好きだ。キャラもいいし、好きな音楽なども自分の趣味に共通してるところがあるので、ずっと注目してる。それは文芸書に火花を上梓する以前のことからだった。本作「人間」の物語後半を担う、両親が沖縄・奄美地方出身というのも読む前から知っていた。つまり著者のことをいちファンに過ぎないが、ちょっとは知っているのである。そのバックグラウンドがある状態で本作を読むと、贔屓目もあるのかもしれないが、色々楽しい。だが時に文面の裏を読もうともしてしまう。永山の声を借りて、世間に対しての皮肉などが語られるところなどは、又吉さんも普段そう思ってるんだろうな、って思ったり。
 世の中には、何もかも考え過ぎる人と、あまり難しく捉えず簡単に進む人がいる。小説に出てくる人って大抵前者だ。まあ後者だと物語として深みゼロなのかもしれないが、それも面白いかも。一人称ではどうしても心の動向を逐一表現する必要があるから、三人称に表現した薄い物語を見てみたくなった。それにしてもよく物語には、小さい頃こんなことを思っていたなんて、起こる出来事に対していちいち考察を重ねた描写があるが、自分は小学生の時の心の動きを何も思い出せない。幸せだったのか、ただ忘れてしまったのかわからないが。
 令和になり、もうすぐ一年となるが、いまだに昭和に拘る自分は如何なるものか。又吉さんといつか飲んでみたいと思う。