2021年2月14日日曜日

Novel in 2021 No.6 夜の谷を行く/桐野夏生

2021.2.14  夜の谷を行く/桐野夏生

 今年2冊目の桐野さん。初めて読んだ時と同じく、次の展開が気になってしょうがない文体や内容に痺れる。
 連合赤軍の話だ。本書は始めフィクションと思っていたが、実名が多く登場するノンフィクションものだった。あさま山荘事件は学生運動の末路ぐらいに捉えていたが、てんでそんなことはなく、その実態は狂気で戦慄で悲劇的なものだった。物語は元連合赤軍兵士、西田の目線で進んでいく。彼女は過去の行いで周囲の人間が苦しんだことを重んじ、服役後はひっそり生きていこうと決める。ただ、そんな日常も1本の電話から狂い始める。
 2回目の読書芸人で光浦さんが桐野夏生さんを紹介していた。女が見せる意地悪な態度の描写に興奮していたが、わかる。西田と妹がよく小競り合いをするのだが、その応酬は意地の悪さ、皮肉、悪態、疎外で満ちている。よくこんな苛立たせる表現ができるなあとニヤついてしまう。早く別の作品が見たくなる。

 

2021年2月7日日曜日

Novel in 2021 No.5 共生虫/村上龍

 2021.2.7  共生虫/村上龍

 タイトルから不穏な空気が読み取れる。引きこもりの少年に共生虫という虫が取り付く話。実際には妄想により取り付いたように思い込み、共生虫が取り付いた人は、人を処刑することが許されているというネット上での話を信じ込み、自分の行動を正当化する。
 現実に不満や不平があったり、自分の不甲斐なさを感じていたり、思っていることとやっていることにギャップがあると、「あなたは間違ってない」っていう事象や言葉をどこかに探したくなる。自分に自信がないんだろうなとも思う。
 巻末に印象に残る言葉があった。「不要な接触を断ったから気づくことができたのだとウエハラは思った。他のほとんどの人間は不必要な人間関係の中で本当に自分が必要としているものは何かということがわからなくなっている」引きこもりがいいか悪いかは人に寄るだろうから、どちらかが正しいとは言えないが、2021年現在、僕個人が不必要なものが多すぎて混乱しているのは間違いない。際限なく入ってくるニュース、メール、他人の行動など。今のお前に本当に必要なのか。ミニマリズムではないが、そういった生活を求めて行きたいと思う。
 小説を教義として読んでしまいがちだが、いつも飛躍し過ぎてしまう。でも自分に新たな価値観や物差しが加わる感覚が小説の面白いところだ。