2019年2月10日日曜日

Novel in 2019 ⑥ 新釈 走れメロス/森見登美彦

2019.2.10

新釈 走れメロス/森見登美彦


今年3冊目の森見作品。簡単に言うと文学史に名を連ねる小説家5人の作品を作者の新解釈でリメイクしたものだ。あくまで各作品の根幹は継承しつつも、アレンジメントは森見ワールド全開だ。
   この作者が描く世界は基本的に京都が舞台となることが多い。京都が好きな人は物語と共に頭の中で風景を描けるので、その場の臨場感を楽しむことができる。京都へ行く度に思うが、京都は独特な町だ。神社仏閣、町屋、数寄屋造の家屋など、確かな歴史を刻んでおり日本の伝統文化ここにありと言えると思うが、今の暮らしに馴染みのないものが多くて純日本というよりは異世界とも思える。五木寛之氏もある雑誌で「外国に来たような感覚」と話していたので、そういう感覚で町を見回ると確かにそう思える。
    もうひとつ、この作者の特徴と思われるところは現代ではあまり使われない言葉を多用しているところだ。辞書片手に読み進めざるを得ないが、日本語でしか表わせないような絶妙な、痒いところに手が届くとでもいうような表現が多用されている。これは作者が次世代へ素晴らしい日本語表現を伝えたいというメッセージなのではないかと思って読み進めているが、なんともありがたい気持ちになる。
    英語を覚えたり、世界を知ることはグローバル社会の中で確かに必要なことだと思う。だがまず自国の文化、言葉を知るべきだと思う。英語より国語が優先だ。日本の心を知ってこそのグローバルだと思う。日本人は控えめだから心の中だけで思ってる人も多くいると思うが、外国の人と比べると愛国心が見えにくい。右寄りの発言は何かしらの信者と思われる傾向が表現の自由を奪っているかもことも一因かもしれないが。でも世界各国から日本に興味を持ち訪ねて来る人に日本の素晴らしさを答えられないのは少し恥ずかしい。世界情報共有により様々な価値観が画一化されつつある今の地球上で、もう一度自国を見直し、独自の色を捉える必要がある。

2019年2月4日月曜日

Novel in 2019 ⑤ 夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

2019.2.4

夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦



  会社の後輩から拝借した今年2冊目となる森見登美彦さんの作品である。世間ではアニメ化して話題を呼んだらしいが、僕には初見の本であった。
   まず作品名に惹かれるものがある。語呂がいい。自由律俳句のようなリズムがあり、入口から期待が膨らむ。主人公の黒髮の少女は天真爛漫で一見大人しそうに思えるが、実は行動力のある性根から素直な子だ。誰もが惚れるとはいかないまでも、純粋で己に忠実であり心を動かされる。老若男女誰であろうと、人が一心不乱に何かに取り組む姿は美しい。キラキラと光輝く高貴なものを見ているような感覚になる。暗礁に乗り上げ、己の意思通り前へ進めない不甲斐なさを感じている時など、そのような光景は心のシミを漂白してくれる。
  そんな黒髮の少女にあっちこっち踊らされる1人の男(勝手に踊っているともいえる)が、この物語のもう一つの軸を担う。彼は己の願いを叶えよう奔走するも、ことあるごとに撃破される青春に充ち満ちた男だ。このような男には情を抱く。
  今思えば駆け引きしている時が1番楽しい時間だったなどというのは、辛うじて所帯を持てた男の自惚れた戯言に過ぎないが、学生時代というのは実にいい時間だったと改めて思う。ここまで自由に己を試せる時間は、一旦仕事を始めてしまうとなかなか持てるものではない。時間を作る努力をするか、何かを失うリスクを背負えば決して難しいことではないが。
   未来をナイスに闊歩するためには、とにかく今を諦めないことだ。「不撓不屈」これは我が座右の銘だが、この小説にも「虚仮(コケ)の一念、岩をも通す」という泥臭い一文が登場する。これは未熟な人でも一途に努めればやがては成就するという意味を成す。
   物語は黒髮の少女と男の未来が動き出す時に終焉を迎える。この男には勇気づけられた。僕も愚かなりに泥臭く明るい未来のために日々の妄想に努め、一歩ずつ歩みを進めて行きたい。

2019年1月23日水曜日

Novel in 2019 ④ スマホを落としただけなのに/志駕晃

2019. 1. 23


スマホを落としただけなのに/志駕晃


  月並みな話だが、現代はスマホに支配されている。何をするにも側にいるし、これがないと不安でしかたない人もいる。
  今年31歳の僕が携帯電話を持ち始めたのは中学2年生の時で14歳だった。持ち始めた年齢として、現代では遅いかもしれないが、ひと世代前からしたら早いというところだろうか。当時の携帯電話には、電話、メール、それとグローバルとはまだ言えない小さなウェブサイト内を、ゆったりと閲覧する機能くらいしか備わっていなかった気がする。当然役に立っていたし、あれば便利だったが、無くても困るものではなかった。生活の中を占めるウェイトはまだ少なく、あくまで生活の補助役であったと思う。ところが20歳頃、iphoneが初めて日本に伝わり…今に至る。
  読み進めて行くに連れて、まず感じたのは恐怖である。見えないものに対して人は恐怖を抱きにくいと思う。それは実感がないから。ただ見えないものが徐々に近づいてると知れば、それは見える恐怖よりその度合いが増すのではないか。見えないからどう対象していいかわからない。クラッカー、サイバー攻撃など、ネット上でのしかけに対して無能な人は無抵抗にならざるを得ない。作者は癌細胞が人知れず死を手繰り寄せるように、徐々に迫る恐怖を緻密に描写している。専門的な言葉も、理解しやすくする工夫がされているのか、知識が浅はかな僕でも、飛ぶように読むことができた。
  スマホ依存は今や現代病の一つである。図書館へ行く時、携帯電話を車に置いて行くことがよくあるが、ものがないと見ないものだ。(もちろん物理的に見れないのだが)このように警鐘を鳴らしてくれたことは、スマホ依存な人が苦手な僕からしたら感謝したいところだが、もうそれらがない時代に戻ることは無理だろう。いや、それよりまだ誰も知る由も無い、人の存在さえも脅かすテクノロジーが未来には待っていると思う。時代は加速し続けている。


2019年1月20日日曜日

novel in 2019 ③ となり町戦争/三崎亜記

2019. 1. 20

となり町戦争/三崎亜記


表沙汰にはならず水面下のみで進む戦争や、該当国同士ではない代理国間での戦争など、戦争には色々な形態がある。戦争に限らずあらゆる事象は目の前では起こらない限り、または自分の周りへの影響が無い限りは実感が持てないことが多いのではないか。例えば中東での争いで自爆テロにより数十名死亡と報道されても、僕ら一般人は大変だなと思うばかりで実感を持てない。大変なのはわかるが、現実的に何もできない。(行動次第では可能だと思うが僕はできない)
  そのようなもどかしさをこの小説では説明しているのだろうか。少なくとも僕はそう読み取ったが、ストーリーは平たく展開が淡々としており、そろそろ盛り上がりが来るだろうかと思ってる間に話が終わってしまった。実感の無い戦争を謳う前に、このストーリー内容に実感を持てないまま終わってしまった印象である。
    異なる意味でのもどかしさを感じてしまったが、このような読後感を持たせるのが作者の目的なら、僕は素直に嵌ってしまったことになる。

2019年1月13日日曜日

novel in 2019 ② 熱帯/森見登美彦




2019. 1. 13

森見登美彦さん作の「熱帯」

  入院期間を利用して読むことができた。そこは入院に感謝…
  話の概要をダ・ヴィンチで見かけたので読んでみたくなったのだが「どういった小説かは読んでみてもらわないと説明できない」というのがこの小説についての作者からのコメントであった。読み終えて、今こうして文章を走らせているが、作者の言う通り型にはまらない何とも形容し難い小説であった。話の鍵を握るのは「千一夜物語」という実在する物語だ。(小説を読んでいる合間に調べて初めてこの本について知った)読む進めていくと、物語の巧みで奇妙な展開に脳が熱くなってきた。様々な大きさや形の情報が、次々と目の前を通り過ぎて行き、脳内の短期記憶倉庫は整理しきれずごちゃごちゃである。我が読書脳のメモリ不足を痛感した次第だ。これが現実なのか夢なのか、作者の術中に嵌められた感じがするが、小説を読む時の心地良さとしては悪くはない。
   物語自体の本質とはズレるが、京都を愛でる人には嬉しい描写が現れる。東山、南禅寺付近の描写は情景と共にページをめくることができた。京都が呼んでいる。

   入院中の病室で「熱帯」というタイトルの本。時には右腕にセファゾリン点滴を打ち込みながら片手で、時には集団部屋という監獄にも似つかない異空間で人生を散々謳歌した後ここへたどり着いたであろう3人のおじきのいびき・独り言・イヤホンをしながらの笑い声に苛まれつつ読み進めたこの本について作者は「熱帯と本というものはかけ離れている」と、雑誌内でコメントしていた。病室もまた熱帯とは対の場所にいるような気もする。そんな居心地で読み進めた本は、初めての入院ということも重なり、生涯忘れ難い1冊となるだろう。それにしても京都行きたい。
  


2019年1月7日月曜日

beautiful stationery & Art..



hang out with good old friend T to ALASKA BUNGU in Gifu. (mighty stationery shop)

旧友Tと岐阜市のアラスカ文具へ。スタンダードなドイツ製や、あまり見かけないヨーロッパ製の文具など多数取り扱っており、来る度とても楽しくなります。今日は月光荘のヌメ革ペンケースとスケッチブック、Rotringのtikkyシャーペンとボールペン、シャチハタのエルゴラインを購入。ペンケースは経年変化が楽しみ。12月に入ったばかりという店員さんが面白かった。



after that, heading for “Alvar Aalto Second Nature” in Nagoya Art Museum.

その後はフィンランドの巨匠、アルヴァ・アールトの展示会へ。自分の思いを身の回りのものにデザインとして落とし込むことは、生活がより豊かになるんだろうなあ。よりベターな暮らし。




2019年1月5日土曜日

novel in 2019 ① 羊と鋼の森/宮下奈都

2019. 1. 5.

小説家いいな。
そう思わせてくれた宮下奈都さんの

「羊と鋼の森」


自然な言葉と無理をしない比喩表現が心地よく体に入ってきた。非現実的過ぎず、あくまでニュートラルな良さがある。ピアノの一部は羊毛と木でできているのでそれを森と捉え、弦は鋼である。ピアノの調律や演奏の中にまるで自然の中を歩くような心地よさがあるというのは、筆者の実体験が元になっているのであろう。色々な趣味や仕事があるが、原点回帰というか、すべては自然が元にあると常日頃感じてしまう。むしろ母なる自然と言われるように人間の心はぼくらが気づかないところで、自然への回帰をひしひしと促してるのではないかと考える。文明が暮らしのあり方を日々変えてはいるが、主体はあくまで自然なのだろう。