2022年7月10日日曜日

Book in 2022 No.16 ハピネス/桐野夏生

 2022.7.10

 桐野さんのハピネス。以前読んだ「ロンリネス」はこのハピネスの続きであった。読む順番逆だった。アウチ。
 都心のタワーマンションで起こるママ友たちの話だが、これが事実だとしたら絶対都心のタワーマンションには住みたくないと思う。いや、多少なりとも事実なのだろう。仕事をせずに夫の給料で暮らし子供たちに尽くすことは人生の選択肢として決して悪いことではないし、人ぞれぞれだとは思うが、それを鼻にかけて、自慢し合い、妬み合うなぞ読んでいるだけでゾッとする。
 桐野さんは女が醸し出す厭味も、男が見せる汚らしさも巧みに表現するため、フィクションということをわかっていながら、腹立たしくなる。こういった表現を生み出すために、日々目にする言葉の切れ端、言動、心理状態等、そういった部分に対する観察眼を養う必要がある。


2022年6月26日日曜日

Book in 2022 No.15 月と蟹/道尾秀介

 2022.6.25

 小学4年生の慎一は母の純江、祖父の昭三と3人で暮らしている。慎一は父親を病気で亡くしたことで影を背負い、引っ越して来た小学校では同級生と馴染めずにいた。同じく引っ越して来た春也とは境遇が似ていることから、少しずつ仲良くなるが、、そんなところから物語は始まる。
 道尾さん、面白い。装丁の印象通り、闇夜をもがき苦しむような話だが、脳にストンと落ちる比喩表現、言葉の羅列、ほどよく心を揺さぶるサスペンス色もすべてが心地よい。他作も読んでみたい。
 小学生の時は何を考えて過ごしていたのか振り返ってみる。その時々の細かな感情の変化までは覚えていないが、断片的には覚えていることがある。それは総じて何か自分にとって不快な行為を被った場面である。
 小学5年生の時、自転車に乗ったヤンキー風な2人組が下校中の僕にぶつかってこようとしてきた。スッと避けたら、アブねーな!と、一言罵声を浴びせて通り過ぎていった。その時僕はかなりビビっていたが、今考える小学生相手に肩をいからせ、まして声を張り上げるなんて。挑発行為をしていたなら叱られて当然とは思うが、あの時は普通に歩いていただけだったような・・・。あいまいな記憶は自分本位に傾く向きがあるので、今考えても真実はわからないが印象的なできごとであった。
 こうしてずっと覚えているのは多少なりとも憎しみがあるのであろう。「憎むことでいつまでもあいつに縛られないで」というみゆきさんの歌詞が僕を解放へ導こう試みるが、なかなか頑なな記憶で参ってしまう。
 


2022年6月25日土曜日

Book in 2022 No.14 きみはいい子/中脇初枝

 2022.6.25

 初めて読んだ作家さん。5つの短編で構成されているが、各々共通する人物が登場する。虐待やモンスターペアレンツなど、親と子供にまつわる問題にフォーカスし、それを教師や子供からの目線で綴っている。子供の言動は親や環境からの影響が大きい。ほぼそれが占めていると言ってもいいかもしれない。親のいい部分、わるい部分、色濃く反映される。子供の頃はそんなこと気づきもしないが、親と自分を客観視できる年齢になるとわかってくる。ただ、自分の性格のある部分をこれは親からの影響だと認識し、それを変えたいと思ったとしても、相当な努力かガラッと環境を変えない限りして変えられない気がする。個人的には。
 子供の頃、母方の祖父は車を運転する際、よくキレていた。交通ルールを守らない方が悪いのだが、僕は怒る人を見るのが嫌いだった。ただ、自分がいざ運転するとよく怒っている。割り込みされたり、スマホを見ていて全然進まないから青信号で行きそびれたり、ずっとノロノロ走っていたのに青信号が黄色になりかけたら途端にスピードをあげ自分だけ青信号で通過したり、思い出すだけで恨みは尽きない。祖父のように罵詈雑言を浴びせるのではなく、なるべくコミカルに声を荒げたりと努めてはいるが、難しいことである。
「憎むことでいつまでもあいつに縛られないで」
みゆきさんのある歌の一節をいつも発動させるよう、脳にリマインダーを仕掛けている。


2022年6月7日火曜日

Book in 2022 No.13 日本三文オペラ/開高健

 2022.6.7

 大阪市内、現在の大阪城公園はかつての大阪陸軍造兵廠であった。当時は日本最大、つまりアジア最大の兵器製造の拠点でもあった。戦後、敷地や兵器の一部はアメリカ軍に接収されたが、1952年のサンフランシスコ講和条約締結以降も、この莫大な鉄の砂漠は残り続けた。鉄や銅など様々な鉱物を原料とした武器が眠っていたため、杉山鉱山とも呼ばれていたらしい。「日本三文オペラ」はそれら鉱物を夜な夜な敷地に忍び込んでは強奪していた集団、別名”アパッチ族”をテーマにした小説である。
 開高健の小説は内容の濃さからか、いつも読むのに時間がかかってしまう。ただ、幾日も頭に叩き込むゆえ、内容をよく覚えている。彼もアパッチ族だったのではないかというくらいの、観察力やリアルな描写に舌を巻く。これが想像の範疇なら恐ろしいものである。ドロドロした血生臭い、臓物のような話なのだが、著者の粋で放埒な言葉センスで爽快な気分になる。眼前で繰り広げられるアパッチ族の狂喜乱舞、ベトナムでの戦闘前線取材、アマゾンでの釣行、語彙力や想像力や生命力を掻き立てるのはこの刺戟なんだな。



2022年4月30日土曜日

Book in 2022 No.12 IN/桐野夏生

2022.4.30  

小説家であるタマキの葛藤を描いている。葛藤といえば簡単だが、実に千差万別、複雑に入り組んだ人間関係と感情を味わえる作品だ。
 いつも作品の感想しかここには記さないが、振り返った時に作品の概要を思い出せるよう、覚書程度に記録をしておく。「主人公のタマキは小説家で、今新しいテーマを元にして作品を書くため取材をしている。そのテーマの元となったのは過去に話題を読んだ緑川未来男作『無垢人』だった。この本に登場する人物、関連する人物を探すも、本の中でのキーパーソン『◯子』を特定できないでいた。云々」

 主人公が小説家ということで、本を出版する際の編集者との関係など、桐野氏の実体験が元になっていることも多いのかも。そう考えると担当編集者との関係を良好に保つことは実に大切なことだとわかる。
 小説を読むと、自分自身を振り返り、日々の暮らしに活かせることがあるかと熟考する時間が持てる。慌ただしく、悲しい世の中をできる限り健全に過ごすための拠り所のようなものだ。





 

2022年4月17日日曜日

Book in 2022 No.11 マチネの終わりに/平野啓一郎

2022.4.17

 天才ギタリスト蒔野とジャーナリスト洋子のお話。艶やかな文章表現が、大人な魅力を深く描き出している。平野氏は言葉の力をものすごく信じていて、言葉との信頼関係が感じられる。言葉たちが氏に使われることで本来の力を発揮して、言葉自身が踊っているようなそんな印象を受ける。物憂げな表現さえも輝いているように感じられて、どんどん引き込まれてしまう。早く先が見たくて、ページを捲りたくて仕方がなくなった。日を跨ぐまで読み、そのまま机でうつ伏せで寝て、驚くことに夢にもこの話がでてきて、一旦ベッドに流れ込んだのも束の間、気になって朝日と共に起きて読んでしまった。こんな幸せなことあるのか。朝焼けが徐々に広がってくる頃、物語の展開はなんせもどかしかった。残りのページが少なくなるにつれて、寂しくなって来るわ、まだ2人再会してないけど大丈夫か?と心配するわでそわそわ。その後の展開は皆様のご想像にお任せという、いい頃合いで物語は幕を引いた。本は完結したけど、気持ちはまだ着地したくないと宙を舞っておる。スラムダンクの引き際よろしく、一番綺麗な姿での別れはものすごく切ないんだけど、その印象がいつまでも色褪せずにキラキラしたものとして刻まれてて、心の糧になっているような気がする。

 

2022年4月12日火曜日

Book in 2022 No.10 雪国/川端康成

 2022.4.12

作者あとがきに、雪国は日本の外の国で日本人に読まれた時に懐郷の情を一入にそそるらしいと書かれている。なんでか日本の国内にいてもそう思う。幸せな話ではなく、寒さを感じさせる描写ばかりなのだが、温かさを感じる。常に陽に照らされる夏ではなく、ふとした時に感じる冬の陽の温もりのような、さりげなさがある。
 芸者とか花街にまつわる表現ってのは、個人的に文章に華を感じる。江戸から昭和にかけての情緒的な香りがするし、背徳的なところにもハラハラするからかもしれない。殊更、駒子が三味線を弾き始める描写はもう文章芸術といっていい。言葉でそこまでの艶かしさを出せるってのは恐怖すら感じる。これぞ川端康成、緻密な観察力がものをいうんだろう。日々目にする光景を目に焼き付けて、言葉にして表現することが大事なのだろう。