2019年3月3日日曜日

Novel in 2019 ⑨ 真実の10メートル手前/米澤穂信

2019.3.3

真実の10メートル手前/米澤穂信


 









 脳がブドウ糖を欲している。読み終えた後にそう思った。ただこういった没入は良い疲れであり、読後、外へ出たら風をいつも以上に気持ちよく感じた。
    この本は6つの異なる短編で構成されているが、記者である太刀洗万智が全編に登場し様々に躍動する。切れのいい状況説明と人物間の会話により、淀みなくストーリーが流れ、次々とページがめくられる。ミステリー特有の人を引き込む力がいかんなく発揮されている感じがする。
    各編、太刀洗万智以外の中心人物の一人称により展開していく。その中で彼女とやり取りをする人物が彼女に対して何を感じ、何を思うのか、その心の読みが面白い。初め彼女と接する人物はみなめいめいにして、彼女を訝り、呆れた態度を取るが、物語が進むにつれて己の誤りに気づき、彼女の聡明さに感心し始める。彼らは彼女に対しての誤解を恥じるというよりは、その思考の切れ具合に畏怖を抱く。水戸のご老公が悪を成敗した時のような快活さがあり、心がスッキリする。
    作者は岐阜出身のため東海地方が舞台となるのも面白い。素直に別作品も読んで見たいと思う。


0 件のコメント:

コメントを投稿