2022年12月28日水曜日

Book in 2022 No.19 抱く女/桐野夏生

 2022.12.27

 いつの時代にも「俺はこんな時代に生まれたばっかりに、、」「私たちは不幸な時代に生まれた、、」と嘆いている人はいるのだろう。2022年現在、我々は原因不明の病原体に脅かされ、戦争により刻々と命が失われるのをリアルタイムに知り、燃料や原材料の高騰の煽りを受け、日々の暮らしにあまり光を見出せないでいる、ように思える。今の時代は不幸なのだろうか。状況や人により答えは異なるだろうが、相対的に見れば僕は少なくとも幸せだと思えている。学生同士が互いの主張の違いから、殺し合いに発展する時代と比べたら尚更だ。
 人生は基本的には闇と思うべきだ。これはネガティブ思考ではなく、それを基準にすることで日々の小さな光を見つけられるようにするポジティブ思考に他ならない。明日の天気は晴れのようだ。
 





2022年11月17日木曜日

Book in 2022 No.18 夏の闇/開高健

 

 自分の心に浮かび上がる感情を言葉で表現すると、少し違うなという時がある。おおまかには合ってるんだけどほんの少しの違和感というやつ。他国の言語を極めていないので何とも言えないが、日本語の表現は緻密を極めてるのではないか。迷う一方、至極の表現というのも生まれる。開高翁は日本語の表現者の中でもそのトップ集団の一人であろう。(これまた日本語の表現者を極めてないので、今まで触れた中ではという前提にて)
 今まで読んできた小説の中にも唸るような表現はたくさんあった。ただ、ほぼ全ページに絶え間なく、弾の切れない機銃掃射のような表現をし続ける小説はそうは無い。開高翁は上梓後に燃え尽きると聞こえているが、これは無理もないだろう。ペース配分を考えたフルマラソンではなく、100m走の速さで走り続けたフルマラソンのような文脈である。あゝカッコいい。
 

2022年8月27日土曜日

Book in 2022 No.17 限りになく透明に近いブルー/村上龍

 2022.8.26

 角田光代さん曰く、小説を書き重ねてゆくことで自分の文章を確立させていく作家と処女作から自分だけの文章を持っている作家がいるらしい。この作品は完全に後者にあたる。
 あらゆる作家の処女作って気になるものだが、村上氏のこれをずっと読んでいなかった。ドラッグと性に走る若者を描いた作品で、氏はこれを二十代で描いている。もう信じられない。初めてコインロッカー・ベイビーズを読んだ時も相当な衝撃だったが、一作目からのこの人の文章は爆発していたわけだ。小説は作家の想像や妄想を文章に落とし込むわけだが、この人のそれは常軌を逸している。ヨーロッパにてトランスやエレクトロを手掛ける人たちは、自らがハイになることでジャンキーのツボを刺激する音を求めているわけだが、氏もドラッグしながら執筆してたんじゃないかと思うくらい描写が鋭い。


2022年7月10日日曜日

Book in 2022 No.16 ハピネス/桐野夏生

 2022.7.10

 桐野さんのハピネス。以前読んだ「ロンリネス」はこのハピネスの続きであった。読む順番逆だった。アウチ。
 都心のタワーマンションで起こるママ友たちの話だが、これが事実だとしたら絶対都心のタワーマンションには住みたくないと思う。いや、多少なりとも事実なのだろう。仕事をせずに夫の給料で暮らし子供たちに尽くすことは人生の選択肢として決して悪いことではないし、人ぞれぞれだとは思うが、それを鼻にかけて、自慢し合い、妬み合うなぞ読んでいるだけでゾッとする。
 桐野さんは女が醸し出す厭味も、男が見せる汚らしさも巧みに表現するため、フィクションということをわかっていながら、腹立たしくなる。こういった表現を生み出すために、日々目にする言葉の切れ端、言動、心理状態等、そういった部分に対する観察眼を養う必要がある。


2022年6月26日日曜日

Book in 2022 No.15 月と蟹/道尾秀介

 2022.6.25

 小学4年生の慎一は母の純江、祖父の昭三と3人で暮らしている。慎一は父親を病気で亡くしたことで影を背負い、引っ越して来た小学校では同級生と馴染めずにいた。同じく引っ越して来た春也とは境遇が似ていることから、少しずつ仲良くなるが、、そんなところから物語は始まる。
 道尾さん、面白い。装丁の印象通り、闇夜をもがき苦しむような話だが、脳にストンと落ちる比喩表現、言葉の羅列、ほどよく心を揺さぶるサスペンス色もすべてが心地よい。他作も読んでみたい。
 小学生の時は何を考えて過ごしていたのか振り返ってみる。その時々の細かな感情の変化までは覚えていないが、断片的には覚えていることがある。それは総じて何か自分にとって不快な行為を被った場面である。
 小学5年生の時、自転車に乗ったヤンキー風な2人組が下校中の僕にぶつかってこようとしてきた。スッと避けたら、アブねーな!と、一言罵声を浴びせて通り過ぎていった。その時僕はかなりビビっていたが、今考える小学生相手に肩をいからせ、まして声を張り上げるなんて。挑発行為をしていたなら叱られて当然とは思うが、あの時は普通に歩いていただけだったような・・・。あいまいな記憶は自分本位に傾く向きがあるので、今考えても真実はわからないが印象的なできごとであった。
 こうしてずっと覚えているのは多少なりとも憎しみがあるのであろう。「憎むことでいつまでもあいつに縛られないで」というみゆきさんの歌詞が僕を解放へ導こう試みるが、なかなか頑なな記憶で参ってしまう。
 


2022年6月25日土曜日

Book in 2022 No.14 きみはいい子/中脇初枝

 2022.6.25

 初めて読んだ作家さん。5つの短編で構成されているが、各々共通する人物が登場する。虐待やモンスターペアレンツなど、親と子供にまつわる問題にフォーカスし、それを教師や子供からの目線で綴っている。子供の言動は親や環境からの影響が大きい。ほぼそれが占めていると言ってもいいかもしれない。親のいい部分、わるい部分、色濃く反映される。子供の頃はそんなこと気づきもしないが、親と自分を客観視できる年齢になるとわかってくる。ただ、自分の性格のある部分をこれは親からの影響だと認識し、それを変えたいと思ったとしても、相当な努力かガラッと環境を変えない限りして変えられない気がする。個人的には。
 子供の頃、母方の祖父は車を運転する際、よくキレていた。交通ルールを守らない方が悪いのだが、僕は怒る人を見るのが嫌いだった。ただ、自分がいざ運転するとよく怒っている。割り込みされたり、スマホを見ていて全然進まないから青信号で行きそびれたり、ずっとノロノロ走っていたのに青信号が黄色になりかけたら途端にスピードをあげ自分だけ青信号で通過したり、思い出すだけで恨みは尽きない。祖父のように罵詈雑言を浴びせるのではなく、なるべくコミカルに声を荒げたりと努めてはいるが、難しいことである。
「憎むことでいつまでもあいつに縛られないで」
みゆきさんのある歌の一節をいつも発動させるよう、脳にリマインダーを仕掛けている。


2022年6月7日火曜日

Book in 2022 No.13 日本三文オペラ/開高健

 2022.6.7

 大阪市内、現在の大阪城公園はかつての大阪陸軍造兵廠であった。当時は日本最大、つまりアジア最大の兵器製造の拠点でもあった。戦後、敷地や兵器の一部はアメリカ軍に接収されたが、1952年のサンフランシスコ講和条約締結以降も、この莫大な鉄の砂漠は残り続けた。鉄や銅など様々な鉱物を原料とした武器が眠っていたため、杉山鉱山とも呼ばれていたらしい。「日本三文オペラ」はそれら鉱物を夜な夜な敷地に忍び込んでは強奪していた集団、別名”アパッチ族”をテーマにした小説である。
 開高健の小説は内容の濃さからか、いつも読むのに時間がかかってしまう。ただ、幾日も頭に叩き込むゆえ、内容をよく覚えている。彼もアパッチ族だったのではないかというくらいの、観察力やリアルな描写に舌を巻く。これが想像の範疇なら恐ろしいものである。ドロドロした血生臭い、臓物のような話なのだが、著者の粋で放埒な言葉センスで爽快な気分になる。眼前で繰り広げられるアパッチ族の狂喜乱舞、ベトナムでの戦闘前線取材、アマゾンでの釣行、語彙力や想像力や生命力を掻き立てるのはこの刺戟なんだな。



2022年4月30日土曜日

Book in 2022 No.12 IN/桐野夏生

2022.4.30  

小説家であるタマキの葛藤を描いている。葛藤といえば簡単だが、実に千差万別、複雑に入り組んだ人間関係と感情を味わえる作品だ。
 いつも作品の感想しかここには記さないが、振り返った時に作品の概要を思い出せるよう、覚書程度に記録をしておく。「主人公のタマキは小説家で、今新しいテーマを元にして作品を書くため取材をしている。そのテーマの元となったのは過去に話題を読んだ緑川未来男作『無垢人』だった。この本に登場する人物、関連する人物を探すも、本の中でのキーパーソン『◯子』を特定できないでいた。云々」

 主人公が小説家ということで、本を出版する際の編集者との関係など、桐野氏の実体験が元になっていることも多いのかも。そう考えると担当編集者との関係を良好に保つことは実に大切なことだとわかる。
 小説を読むと、自分自身を振り返り、日々の暮らしに活かせることがあるかと熟考する時間が持てる。慌ただしく、悲しい世の中をできる限り健全に過ごすための拠り所のようなものだ。





 

2022年4月17日日曜日

Book in 2022 No.11 マチネの終わりに/平野啓一郎

2022.4.17

 天才ギタリスト蒔野とジャーナリスト洋子のお話。艶やかな文章表現が、大人な魅力を深く描き出している。平野氏は言葉の力をものすごく信じていて、言葉との信頼関係が感じられる。言葉たちが氏に使われることで本来の力を発揮して、言葉自身が踊っているようなそんな印象を受ける。物憂げな表現さえも輝いているように感じられて、どんどん引き込まれてしまう。早く先が見たくて、ページを捲りたくて仕方がなくなった。日を跨ぐまで読み、そのまま机でうつ伏せで寝て、驚くことに夢にもこの話がでてきて、一旦ベッドに流れ込んだのも束の間、気になって朝日と共に起きて読んでしまった。こんな幸せなことあるのか。朝焼けが徐々に広がってくる頃、物語の展開はなんせもどかしかった。残りのページが少なくなるにつれて、寂しくなって来るわ、まだ2人再会してないけど大丈夫か?と心配するわでそわそわ。その後の展開は皆様のご想像にお任せという、いい頃合いで物語は幕を引いた。本は完結したけど、気持ちはまだ着地したくないと宙を舞っておる。スラムダンクの引き際よろしく、一番綺麗な姿での別れはものすごく切ないんだけど、その印象がいつまでも色褪せずにキラキラしたものとして刻まれてて、心の糧になっているような気がする。

 

2022年4月12日火曜日

Book in 2022 No.10 雪国/川端康成

 2022.4.12

作者あとがきに、雪国は日本の外の国で日本人に読まれた時に懐郷の情を一入にそそるらしいと書かれている。なんでか日本の国内にいてもそう思う。幸せな話ではなく、寒さを感じさせる描写ばかりなのだが、温かさを感じる。常に陽に照らされる夏ではなく、ふとした時に感じる冬の陽の温もりのような、さりげなさがある。
 芸者とか花街にまつわる表現ってのは、個人的に文章に華を感じる。江戸から昭和にかけての情緒的な香りがするし、背徳的なところにもハラハラするからかもしれない。殊更、駒子が三味線を弾き始める描写はもう文章芸術といっていい。言葉でそこまでの艶かしさを出せるってのは恐怖すら感じる。これぞ川端康成、緻密な観察力がものをいうんだろう。日々目にする光景を目に焼き付けて、言葉にして表現することが大事なのだろう。


2022年4月5日火曜日

Book in 2022 No.9 奴隷小説/桐野夏生

 2022.4.3 

短編集である。タイトルの通り、理不尽で抗うことが許されない世界を描いている。読む進めていくほど憂鬱になるのに、こういう世界というのは覗いてみたいという心理になる。人間はずるい。どうしようもない。外で起きていることは所詮外で起きていることで、自分は関係ないのだ。罪悪感を抱こうが同情しようが、己の身に降りかかるまで実感というのは抱けない。小説や映画といった娯楽はそういった世界の擬似体験でもあるのかもしれないが、真の体験者からしたら苦痛で仕方あるまい。物議を醸し話題となる小説や映画は、特定の人たちを嫌な気持ちにさせたりするものだが、複雑かな同時に興味をそそられる人も多いんだろう。
 


2022年4月3日日曜日

Book in 2022 No.8 討論 三島由紀夫vs東大全共闘《美と共同体と東大闘争》

 2022.4.3

2020年に映像化された討論会の手記を発見した。古本屋には足を運んでみるものだ。
何とか読み終えたが、正直意味がわからないことばかり。これを読み解くにはあらゆる知識を会得せねばならない。一般的に革命というのは知識階級や上流階級に君臨するブルジョアをカーストの上層階から蹴り落とし、既成体制を破壊する行為だと思うのだが、そこに対する学生諸氏の思考が僕にとっては複雑すぎる。阿呆が入り込むところではないことは確かだ。ただ時折、詭弁を並べているだけのようにも、討論を建設的に進めるというよりは三島氏の揚げ足し取りに徹底しているようにも見える。論理を捏ねくり回しているだけで現実的な行動にどう繋げていくのかが不透明でならない。安田講堂に立て籠り、機動隊と戦う行為のその先に何を見ていたのであろう。結局、学生運動というもの、とりわけ東大闘争に発展した経緯、三島由紀夫が政治的な行動を始めた経緯、戦後の時代背景等をより深く掘り下げないとこの論争の真意は読み取れない気がする。勉強して出直してこよう。


2022年3月27日日曜日

Book in 2022 No.7 論理と感性は相反しない/山崎ナオコーラ

 2022.3.27  

山崎ナオコーラさんの本初めて読んだ。フィクションなんだろうけど実体験がたくさん盛り込まれていそうな、登場人物に関連性がある短編集だ。二十代前半の人たちは、自分がそうであったように本当にとっても生意気だ。世間を知らなかったんでしょう。でも、よほど強靭な心を持ってない限り、みな歳を重ねる過程で精神を擦り減らし、自分がどんなもんかわかってくる。落ち込むってのは自分が思っていたよりできなかったとか、己に過度の期待をしていた分の跳ね返りなわけだが、当たり前だろ自惚れんなとあの頃の自分に言いたい。今は謙虚になりつつある。どんどん自分を否定して、疑って、見解広く持って、色々吸収していきたいものだ。


2022年3月26日土曜日

Book in 2022 No.5-6 ハックルベリーフィンの冒険/マーク・トウェイン

 2022.3.26

アメリカンクラシックの代名詞のような小説である。開高健の著作「輝ける闇」に出ていたのをきっかけに読んでみた。本が書かれた1800年代というのは、南北戦争、奴隷制度のような今の社会では理解し難いできごとが普通に起きていた。ほぼ原文のまま訳してある黒人を表す言葉も今では口に出すのは憚れる蔑称が使用されている。ほんとに非人道的だった時代だ。他の著書で読んだことには当時の人が死ぬ原因No.1は、人に殺されることだった。日本でも同じ国民同士で殺し合いしてたわけだから、世界共通だったのだろう。命に対する考え方は今とは当然違うわけで、そんなに深く考えなかったのかな。今では何か目標を持ったり、夢を実現するためだったりの生き方が多くみられるが、当時は生きるため生活していたのだろうか。でも文学や物語は当時から存在して、多くの人に影響を与えてきたのだろう。作中のトム・ソーヤなんて、本で読んだ囚人の在り方、窃盗の仕方、すべてその本式通りにやらないと気が済まないたちで、いくらハックが反対しても押し通すところは、子供が抱く純粋な心のように感じられてかわいくも見えてくる。筏で川をくだるなんて今は考えられないけど、植村直己はちょっと前にアマゾン川でやっていたな。冒険家は偉大だ。


2022年3月18日金曜日

Book in 2022 No.4 インドラネット/桐野夏生

2022.3.18


 簡単に言うとカンボジアに友人を探しに行く話なのだが、そこに付随するストーリー展開のボリュームが著者の経験や器を表している。僕は尊敬する人がやることはすべて素晴らしく思えてしまうので、公平な書評をしないといけないとしたらよろしくないと感じながらもやっぱり感心してしまう。東南アジアはベトナムしか肌で感じたことないから詳しくはわからないが、カンボジアという国には歴史を顧みても少し狂気を感じる。まあポルポト政権に対するそれなのだが。そういった歴史背景がこの本の不気味さをより引き立ててるようだ。桐野さんの著書は、フィクションとノンフィクションを巧みに融合させて問題提起をしているところに肝があるというか、物語に引き込まれる要素が詰まっているなと感じる。早よ次の本読みたい。

 

2022年2月6日日曜日

Book in 2022 No.3 ポロメリア/cocco

2022.2.6

coccoの小説。私小説みたいな感じ。coccoの歌詞は狂気と優しさが入り混じっていて、そのギャップが心地が良く昔から好きだ。この小説も彼女らしい節が満載だった。歌と比べると琉球要素が多くて、この環境が彼女をああさせたんだなって思った。
 

2022年1月21日金曜日

Book in 2022 No.2 袋小路の男/絲山秋子

 2022.1.18  袋小路の男/絲山秋子


 この著者の作品は初めて拝読する。学生の頃から気になる男に一見振り回されているようで、自ら色々考え過ぎて振り回っているような女の話だ。恋愛ってのは本当にしゃらくさい。いちいち心を惑わしてくる。学生の時分は心の感受性が今より高くて、飛んだ妄想もあって、一喜一憂してたんだろうな。フラれて凹むなんてのは今になってはうらやましい体験でもある。一日体験でもできるならしてみたいものだ。凹むとは本気の証拠である。青春時代の本気は輝かしい。

 おそらく20歳くらいの頃は青春イコール若者と思っていたのだろうが、27歳を超えて処世術を徐々に体得しつつある時、そうではないと気づき始めた。本気になれる力があれば青春はいつでも取り戻せるのであった。本気、即青春。

どうせ死ぬんだという自暴自棄のようで、前向きな死生観も20代の時に身に付いた。どう死ぬなら死ぬまで生きよう。笑っていられるように。




2022年1月15日土曜日

2022.1.13 スマホ脳/アンデシュ・ハンセン 訳 久山葉子


これを読む前からスマホは触り過ぎないようにしようと色々対策していたが、読んだらこりゃまずいとなった。最近は友人家族と遊ぶことが多く、子供がいるので色々観察している。子供は基本的に我慢ができない。小学生にでもなれば別だが幼児期の子は欲のままに動いている。それは何も問題ないことだが、その彼らにスマホを持たしたら大変だ。一度見せたら周りが止めるまでずっと見ている。本書内で研究者は、”おやつがほしいの欲求ではなく、コカインがやりたいの中毒性に近いものだ” と称している。もう一本打ってくれよ、たまらねえみたいなジャンキーと一緒だ。スマホもコカインも脳や精神状態に悪影響を及ぼす点では一緒なのだ。

スマホは適切に使用すれば様々な恩恵を受けられるし、より快適な生活をする手立てになる。我々大人はそういった観点でスマホを見定めて、距離を取ることもできるが、若い子はそうはいかないだろう。大人でもそうはいかない人も既にたくさんいるだろうし。

本書内でとりわけ印象に残っているのは、脳はスマホがやってくれることは覚えようとしないということだ。僕が子供の頃、個人で携帯を持つ人はいなかったため直接家に電話をしていた。電話帳など持って歩く人なんていないから、友達の家の電話番号を記憶していた。どこか行く時は地図見て自らルートを選び、ツーリングなどをしていた。すべて自分の脳に叩き込んでいたのだ。今はすべてスマホがやってくれる。電話番号もすぐわかるし、下調べなどせずとも目的地に辿りつけるから道を覚える必要もない。便利でいうことないじゃんとのことだけど、なんだろうか寂しいような切ないような。機械にばっか頼るこの気持ち。

今後デジタルで育った世代が中心となり、アナログとのギャップに疑問を呈する人はいなくなる。世界中と一瞬でつながることへの違和感も、何でも機械がやってくれるというやるせなさもすべて無くなるのだ。それにしてもスポーツがデジタルライフで生じるストレスを解消させたり、脳を活性化させるというのはうれしいことだ。村上春樹さんが走ることについて語っていた本でもそんなこと言っていた。やはり心拍数のBPMは上げなきゃいかん。走ろう。



2022年1月7日金曜日

Book in 2022 No.1 カード師/中村文則 

 2022.1.6   カード師/中村文則


2022年の1冊目は尊敬する中村氏の著書。改めて思うけど一気読みしないと文脈の繋がりがどっかいっちゃう。今年は虚勢を張った結果、書かなくてはならなくなった。あまり宣言をして自分を追い込むということをしたことないけど、これはこれで面白いかもしれない。背伸びするくらいの成長を今年も実践していこうと思う。