2019年3月30日土曜日

Novel in 2019 No.12 深夜特急1 香港・マカオ/沢木耕太郎

深夜特急1 香港・マカオ/沢木耕太郎


  言わずもがな旅へ足を運ばせる小説だ。筆者自身の経験から綴られる文体からは、その土地土地の喧騒や匂いが伝わる。アジア独特の混沌として雑多な感じがたまらなく良い。と言いつつも、自分自身この地域への旅の経験がないため想像しかできない。
  今から10年前の20歳の頃、僕の中で海外へ行くならまずは北米という選択肢しかなかった。アメリカのカルチャーが好きだから、その目で見て感じてみたいという単純な理由だった。ただ日本のバックパッカーたちは若き頃ー少々偏見かもしれないがーみながこぞって東南アジア〜インドを巡っていたというイメージがなんとなくある。そういった類いの文献にはよく目を通していたし、東南アジアは面白そうだなと感じることも多々あったのだが、実際足を運ぶまでは無かった。しかし30歳を越えた今日この頃、とてつもなく行きたくなってしまっている。東南アジアには忘れられた日本の原風景のようなものが残っている…これは知り合いの旧車乗りの方から伺った話ではあるのだが、そう聞いたら行ってみたいと思ってしまったのだ。といってもアジア圏の成長は目まぐるしいらしく、牛を引いて赤土の上をひた歩く人など本当に田舎にしかいないとのことで、都市部なぞは高層ビルも立ち、空港を降り立ったらまずはイメージを覆えされるのだとか。なら田舎に行ってみよう。旅の準備からもう旅は始まっている。



2019年3月20日水曜日

Novel in 2019 ⑪ 盲目的な恋と友情/辻村深月

盲目的な恋と友情/辻村深月



    僕の周りには親友や友達と呼べる人がいる。しかしその友人をどうにかしてあげたいなどと、世話を焼くことはしない。自由にやってる友人が面白い。「誰にもきちんと執着されたことがないから、友達のことを自分のことのように躍起になるんだよ」こんな言葉が出てくる。人に愛されていない、或いは愛されてこなかったというのは人に様々な影響を与えるのだと思う。
   ラジオで人生相談を聞くときもそうだ。あの番組に出る人の悩みは夫婦間のトラブル、浮気不倫、子供の問題、相続、どう生きていけばいいかわからないなど多岐にわたるが、流石のパーソナリティたち、酸いも甘いも経験した人生哲学で次々と解決策をひねり出す。そして相談者は決まって、トラブルを抱えるのは避けられないような一部欠陥のある人が多い。そんな彼らの問題は今起きてるのだが、パーソナリティはなぜそれが起きたのか、そこに至るまでに理由があったはずだと、彼らの過去を探ることも多々ある。するとやはり幼少期の育ち方が尾を引き、今の問題に繋がることが多い。その中でよく耳にするのが、幼少期に愛されてこなかったという問題だ。親にとっては小さなことでも、子供は違う受け取り方をすることもある。それを念頭に入れ子供と接しないと、子供の向かう方向は少しづつズレて行く。
    自分を客観視できるようになるまでは、苦しむことも多いだろうが、そんな時に大切なのが友達なのだろう。悩みは解決しなくても、話すだけで幾分か楽になるのことがある。悩んでたことが嘘だったかのように。友達が多いのは悪くはないが数より中身、いわば真剣度が大切だ。これからも友達とはいい距離を保ち関わっていきたい。いなくなるとただただ生き辛くなる。

2019年3月8日金曜日

Novel in 2019 ⑩ ファーストラブ/島本理生

2019.3.8

ファーストラブ/島本理生


娘が父親を刺して、殺した。この事実の背景を、臨床心理士である真壁由紀の目線から解き明かしていく。
   人が人を殺す理由は様々だ。加害者側が悪いのか、それとも被害者側に殺されても仕方がない理由があるのか、一見してわからないこともある。三つ子の魂百までと言われるほど、幼少期の親のあり方、子供への立ち振る舞い、教育環境などは子へ影響する。親からは当たり前と言われたことが、世間で否定される。その時、子はどうすればいい。自分を否定し始める。周りには親しかいない。頼ると怒られる。子は演技をする。辛い演技を。私は何も気にしてないよ、と。限界が出てくる。できない自分に苛立ち、そして自分を傷つける。助けのないままそれは習慣化され、やがて子は、、
    真壁由紀も負を抱えていた。だが、夫の我聞やクリニックの院長に出会い、人生の航路が変わった。10代の1人旅を、自分探しと茶化すことがある。自分探しというのは、自分は本当は何が好きなのかを探すという意味もあれば、自分自身を認めることでもある。自分とは何か。それがわかって初めて進むべき道が開く。こう書いてるものの、道に迷ってばかりなので、自分は口ばっかりだなと、自分を認めてみる。
    決して幸せな物語ではなかったが、著者の強い思いが感じられる、学ぶべき点が多い小説だった。

    

   

2019年3月3日日曜日

Novel in 2019 ⑨ 真実の10メートル手前/米澤穂信

2019.3.3

真実の10メートル手前/米澤穂信


 









 脳がブドウ糖を欲している。読み終えた後にそう思った。ただこういった没入は良い疲れであり、読後、外へ出たら風をいつも以上に気持ちよく感じた。
    この本は6つの異なる短編で構成されているが、記者である太刀洗万智が全編に登場し様々に躍動する。切れのいい状況説明と人物間の会話により、淀みなくストーリーが流れ、次々とページがめくられる。ミステリー特有の人を引き込む力がいかんなく発揮されている感じがする。
    各編、太刀洗万智以外の中心人物の一人称により展開していく。その中で彼女とやり取りをする人物が彼女に対して何を感じ、何を思うのか、その心の読みが面白い。初め彼女と接する人物はみなめいめいにして、彼女を訝り、呆れた態度を取るが、物語が進むにつれて己の誤りに気づき、彼女の聡明さに感心し始める。彼らは彼女に対しての誤解を恥じるというよりは、その思考の切れ具合に畏怖を抱く。水戸のご老公が悪を成敗した時のような快活さがあり、心がスッキリする。
    作者は岐阜出身のため東海地方が舞台となるのも面白い。素直に別作品も読んで見たいと思う。