2019年12月22日日曜日

Novel in 2019 No.24 もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら/岩崎夏海

2019. 12. 22

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら/岩崎夏海

 組織運営にとって、いかに戦略が大事かがわかる小説であった。一見難しそうな経営学も、身近な高校野球に乗せて説明してもらうと、非常にわかりやすいものだ。やっぱり人のケツを蹴るのは責任感だなと実感する。それも自分だけが背負う責任ではなく、第三者を巻き込んでしまう責任だ。僕の場合、責任というか、やらねばという気になるのはお金を払った時にもよく生じる。やらないと金の無駄になるから、というケチな理由ではあるが、すぐサボる自分にとっては良い動機である。ドラッカーが書いたマネジメントを読みたくなる。

2019年12月7日土曜日

Novel in 2019 No.23 エロス/広瀬正

2019.12.7

エロス/広瀬正
現代と過去を行き来する話。本当の話と、仮の世界が同時に進んでいく。様々な要素が同時に進んでいくが、最後は同じ終着点にたどり着く。当時の言葉ってのはものすごく哀愁が漂っている。特に印象的だったのはウマタケーキである。駄菓子の駄をカタカナで読むとウマタ。菓子を英語で表すとケーキ。それでウマタケーキ。なんて粋なんだ。流行っていたのは1930年代、昭和一桁代である。当時も今も一緒で、新しいものは年寄りから煙たがられていたのだろう。団塊世代が最近の若者は、、と嘆くのを良く聞くが、彼らは戦前生まれの人に、最近の若者は、、と言われてるシーンを映画で見たことがある。いつでも新しいものを生み出すのは若者でなくてはいけない。若者は偉い。

2019年11月7日木曜日

Novel in 2019 No.22 そして、バトンは渡された/瀬尾まいこ

2019.11.7

そして、バトンは渡された/瀬尾まいこ
 














 複数の親を持つ子供の話。みんなと同じ環境で育てばみんなと同じようになるし、みんなと異なる環境で育てば異なる。人と違うって疎外感を持つこともあるけど、自分にしかできないことがあるって思えたら、あの頃の自分に感謝したくなるんだろう。    
  ランニングに没頭してたから、小説を読んだのは4ヶ月ぶりだった。本って良い。やっぱりいい。世界はまだまだ広がっていく。

2019年7月21日日曜日

Novel in 2019 No.21 K2 復活のソロ/笹本稜平

2019.7.21

K2 復活のソロ/笹本稜平

   








 人間に与えられた冒険という素晴らしき行為に深く感銘を受けた。冒険というのは、やれるやれないではなく、やるかやらないかである。何事もやらないとわからないから面白い。人生というものが無意味なものとすれば、そこに意味を付けるのは人間の勝手な行為である。周りの人間からしたら戦争でも山行でも生きて還ることが重要なことだと思うが、仮に当人が命を落としても、自身がそれで人生を全うしたと感じているなら、それを否定してはいけない。生き切ったという意味では賞賛すべきだとも思う。いい本でした。

2019年7月7日日曜日

Novel in 2019 No.20 ハコブネ/村田沙耶香

2019.7.6

ハコブネ/村田沙耶香



  











 
 3人の女性が思いをぶつけ合う。ただ、みな個々に独特の感性を持つため、気持ちに寄り添い合うようなことはなく、小言を言われながらもそれぞれの道を進む。この小説はノンフィクションなので、現実と照らし合わして本の感想を述べるのはナンセンスかもしれないが、登場人物の言動はみな一様に「こんな人いないだろう」と思わせる。現実とかけ離れた小説の設定なんていくらでもあるのだが、この小説の場合そんな感想が出てくる。なんだろうか、文章の羅列が人物の独りよがりなのか、作者の独りよがりのようにも見えてくる。小説は小説家が放つ表現方法と捉えるなら、その意図を捉えることが今の僕にはできなかった。

2019年6月23日日曜日

Novel in 2019 No.19 宝島/真藤順丈

2019.6.23


宝島/真藤順丈


    熱くなった。感動で、そして怒りでも。戦後の沖縄でこのようなことが起きていたとは知らなかった。己の無知を恥じる。

  小説ってこういうものなんだ。音楽もアートも一緒。それを見ても聞いても世の中が変わることはないが、これを見て聞いて動く人が現れたら世界がかわっていく。人のケツを蹴って動かす。これが芸術なんだ。ある面のアメリカは大好きなのだが、政治に関わる部分は本当に嫌いだ。世界で1番、世界の平和を乱してる国だ。太平洋戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争、そして今度はイランか。どこにでも首を突っ込み、ヒロイズムに酔いしれる。イランに望むことは核を持たないことだと。再三言われてるが、なぜ、本当にどの口が言ってんだ。自分たちは世界で唯一核で人々を虐殺し、一生消えることの無い傷を心、体、目に刻み込んだ。戦争を終わらす為だという大義名分を元に行った腐った行為。終わらすためだけなら、なぜ広島にウラン爆弾、長崎にプルトニウム爆弾を落とした。ただの実験に使いやがって、大切な命を。今でもアメリカのヒロイズムに陶酔したベテランはあれは仕方ない行為だったという。

    こんな乱文並べても、今でも基地は沖縄にある。安倍晋三は戦後74年経っても伝統に倣い、アメリカの飼い犬として忠実だ。沖縄では普天間の答えが出てるのに。確かに基地ありきの生活を送る人もいる。でもこれ以上広げなくてもいいだろう。。もう沖縄の人をこれ以上悲しませないでほしい。

2019年6月16日日曜日

Not novel but reading in 2019 No.18 モンベル7つの決断/辰野勇

2019.6.16



  夏山フェスタで現モンベル会長である辰野勇氏の講演を聞いた。会員紙のOutwardで氏の文章を読んでいて、ユーモアがあり俯瞰で物事を捉えることができ、情熱をありったけ備えている人なんだろうなと感じていたが、その通りだった。講演後、氏が上梓した本を購入。ちゃっかりサインも貰った。少し会話をしたがビビリな僕はそれ以上踏み込めなかった。いつか対談できるような領域に行けたらいいな。
  本の中身は価値がある言葉ばかりだったけど、特に印象に残ったものをひとつ。3人のレンガ積みの話だ。1人目に何をしているのですかと聞いたら「レンガを積んでるんだ」と答えた。2人目は「レンガを積んで壁を作ってるんだ」と答えた。3人目は「レンガを積んで、壁を作り、それがやがて大聖堂になる。子供が大きくなったとき、この教会のレンガは私が積んだのだと教えて、見せてやるのが楽しみです」と答えた。やれと言われたことをただやる人、やる行為に目的と意義を明確に持つ人の違いである。辰野さんは会社の社長、つまりリーダーとして引っ張って行く立場だ。社員に事業の意味と目的を明確に示すことで、その意義を感じてもらうことができる。
  読み終わってまず山に行きたいと思った。人生を生き抜く処世術を辰野さんは山で得た。何からそれを得るかは人それぞれだろう。自分は何だろう。うーん、まだまだ旅は終わらない。



2019年6月9日日曜日

Novel in 2019 No.17 T型フォード殺人事件/広瀬正

2019.6.9

T型フォード殺人事件/広瀬正


  











 
 ここ最近の土日はツーリングや歌フェスなどが重なり、本を読む時間を造れなかった。久しぶりの小説でタイムトラベル。いい時間だ。以前読んだこの著者の作品、マイナス・ゼロのような直接的なタイムトラベルは無いが過去と現在の場面を行き来するところ、手法は似ている。残念ながら、僕自身は昭和を愛してると思ってはいるが、じゃあその時代について語ってくれと言われると、その時代を生きた人にはどうしても敵わない。僕が持つのは本や雑誌から得た知識のみ。実際に昭和を生き抜いた人はその景色、車、オートバイ、音楽、風俗や人々の息遣いなど、立体感と臨場感を持って語れる。どうしようもないことなのだが、やはりジェラシーだ。明治、大正、昭和生まれの人は言うまでもなく、日々現世へさよならを告げている。もっと色々な人と話をして、あらゆる分野の知識を吸収したいし、もっと新しい世界を見せてほしい。
   巻末の解説に記してあったが、著者は単なる小説家ではなかったようだ。ジャズ演奏者であり、クラシック・カーのモデル製作者と多くの顔を持っていた。この著者の描く緻密で複雑な文章や多角的なストーリー展開などは、彼のひとつに絞らない生き方や思考が影響してると思って間違いないと思う。
    興味があるならまずやってみる。そこまでの行動は早く。考えるのはその後だ。この頃は次から次へ新しい情報が降りかかるから、少しでも淀んでるとすぐに追いつかれ、追い抜かれ、すぐ背中が見えなくなる。捨てるもの、残すもの、パパッと判断していこう。

2019年5月18日土曜日

Novel in 2019 No.16 カゲロボ/木皿泉

2019.5.18

カゲロボ/木皿泉

  














 平穏な日常のリズムがふと崩れる。人生は思ったように進まないなんて誰でもわかっていながらも、いざその状況になればみなが戸惑い、落胆する。じゃあそんなリズムをまた平常に戻すための起爆剤のようなものは何かといわれたら、小説や音楽のようなエンターテイメントなものかもしれない。それ自体が僕らのそれを変えるのではなく、それを読み、聞いてケツを蹴ってもらい僕らが自ら変えていく。改めて感じることだが、日々の仕事はすべて誰かのためになっている。野菜を育てる農家、野菜を買取り店に並べる小売業、新鮮な野菜を調理し空腹を満たす料理人、空腹が満たされたトラック運転手が運ぶ荷物、その荷物を受け取った青年。その荷物の中身は、、。人はみな繋がる。すべてが無駄ではないと思いたい。

2019年5月6日月曜日

Novel in 2019 No.15 ノースライト/横山秀夫

2019. 5. 6


ノースライト/横山秀夫
  














  ノースライト、北の光り、つまり北からの採光の意味合いである。建築物においての北向きといえばアトリエだ。一日中、光の加減が少なく絵を描くのに適していると、以前インテリアを勉強している時に習った覚えがある。
   物語は建築家として光と闇の時代を生きながらえる青瀬を中心に展開していく。そこへ実在する建築家ブルーノ・タウトの視点や回想が絡み合い、物語に馬力が出てくる。建築やイスが好きな人にとっては非常に馴染みやすく、読み進めていくにつれ話の中へごく自然に包み込まれる感覚があるだろう。
    小説とは様々な事象や事柄を結びつけ、ひとつの物語を作り上げるものだが、この作者の手にかかると非常に緻密で継ぎ目のないごく自然な展開を見せる。一本の糸が別の糸と絡み、さらに他の糸と絡み徐々にごちゃごちゃになっていく。もうこんなのほどけないよと諦めかけた時、スーッと糸がほどけスッキリした表情を見せる。それは爽快な気分であり、読み手を満足させる最高の瞬間である。

2019年4月14日日曜日

Novel in 2019 No.14 ふたつのしるし/宮下奈都

2019.4.14

ふたつのしるし/宮下奈都
  1人の少年と少女の成り立ちを、学生時代から社会人までの時系列で辿ってゆく。2人は2本の並び合う線路のように、真っ直ぐ平行線の人生を進んで行くが、ある時、2人の名前という共通する部分を持って交わる。
  この2人の生き方はとても生き辛そうだ。とにかくとやかく考え過ぎだ。まあ確かに、彼は何も考えていなかったでは、小説として成立しないからわかるのだが、とにかく疲れてくる。日常生活において、我々は常に選択をする。道を左へ右へ、話をするしない、取っておく捨てる。人間の行為はすべて選択により決められているとも言える。僕はとにかく遅い。選択が。いつもあっちかなこっちかなと考えている。結局やりたいことはコレだろうと自分自身わかってても、様々なケースを考えて思考をめぐらしたのちに、やっとのこさやる。たどり着くまでが遅いから人より時間がかかるし、疲れる。ただ、いいのか悪いのかそれが所詮自分だとわかっているから、お前はそんなもんだといつも楽観視する始末。そんな時できない自分に苛立つっていうのは、つまり自惚れなのだろう。無意識下で自分はできる人だと思ってるから、できないこ自分に苛立つ。お前はそんなもんだと認めれば楽なのに。



2019年4月7日日曜日

Novel in 2019 No.13 インシテミル/米澤穂信

2019. 4. 7

インシテミル/米澤穂信

  連鎖的に小さな脈絡を持つ12人が7日間ある施設に監禁される。それはとある人物が彼らを観察するためだった。精神・体力面において極限状態が近づいた時、人はどのように変化していくのか。互いに牽制し合い、疑い、やがて箍が外れて行き、参加者たちは
   極限状態というのは快適な環境の中では想像し難い。普段の生活の中でそれを感じることができるのは、バイクに乗ってる時くらいだろうか。自然の振る舞いに対しては人は身を任せるしかない。それを受け入れて耐えるしかなくなる。雪がチラつく中、こんなに寒いのになぜバイク乗るのだろうかと考えていても、いつも答えがわからないまま走っている。意味を考えたら身も蓋もない、そもそも人間の存在に意味があるかと言われたら、答えはどちらでも正しいし、間違っている気もする。こうして答えをはぐらかし続けて進んで行く。疑問を投げかけといて、答えを明確にしない。フワッと今日も進んで行く。

2019年3月30日土曜日

Novel in 2019 No.12 深夜特急1 香港・マカオ/沢木耕太郎

深夜特急1 香港・マカオ/沢木耕太郎


  言わずもがな旅へ足を運ばせる小説だ。筆者自身の経験から綴られる文体からは、その土地土地の喧騒や匂いが伝わる。アジア独特の混沌として雑多な感じがたまらなく良い。と言いつつも、自分自身この地域への旅の経験がないため想像しかできない。
  今から10年前の20歳の頃、僕の中で海外へ行くならまずは北米という選択肢しかなかった。アメリカのカルチャーが好きだから、その目で見て感じてみたいという単純な理由だった。ただ日本のバックパッカーたちは若き頃ー少々偏見かもしれないがーみながこぞって東南アジア〜インドを巡っていたというイメージがなんとなくある。そういった類いの文献にはよく目を通していたし、東南アジアは面白そうだなと感じることも多々あったのだが、実際足を運ぶまでは無かった。しかし30歳を越えた今日この頃、とてつもなく行きたくなってしまっている。東南アジアには忘れられた日本の原風景のようなものが残っている…これは知り合いの旧車乗りの方から伺った話ではあるのだが、そう聞いたら行ってみたいと思ってしまったのだ。といってもアジア圏の成長は目まぐるしいらしく、牛を引いて赤土の上をひた歩く人など本当に田舎にしかいないとのことで、都市部なぞは高層ビルも立ち、空港を降り立ったらまずはイメージを覆えされるのだとか。なら田舎に行ってみよう。旅の準備からもう旅は始まっている。



2019年3月20日水曜日

Novel in 2019 ⑪ 盲目的な恋と友情/辻村深月

盲目的な恋と友情/辻村深月



    僕の周りには親友や友達と呼べる人がいる。しかしその友人をどうにかしてあげたいなどと、世話を焼くことはしない。自由にやってる友人が面白い。「誰にもきちんと執着されたことがないから、友達のことを自分のことのように躍起になるんだよ」こんな言葉が出てくる。人に愛されていない、或いは愛されてこなかったというのは人に様々な影響を与えるのだと思う。
   ラジオで人生相談を聞くときもそうだ。あの番組に出る人の悩みは夫婦間のトラブル、浮気不倫、子供の問題、相続、どう生きていけばいいかわからないなど多岐にわたるが、流石のパーソナリティたち、酸いも甘いも経験した人生哲学で次々と解決策をひねり出す。そして相談者は決まって、トラブルを抱えるのは避けられないような一部欠陥のある人が多い。そんな彼らの問題は今起きてるのだが、パーソナリティはなぜそれが起きたのか、そこに至るまでに理由があったはずだと、彼らの過去を探ることも多々ある。するとやはり幼少期の育ち方が尾を引き、今の問題に繋がることが多い。その中でよく耳にするのが、幼少期に愛されてこなかったという問題だ。親にとっては小さなことでも、子供は違う受け取り方をすることもある。それを念頭に入れ子供と接しないと、子供の向かう方向は少しづつズレて行く。
    自分を客観視できるようになるまでは、苦しむことも多いだろうが、そんな時に大切なのが友達なのだろう。悩みは解決しなくても、話すだけで幾分か楽になるのことがある。悩んでたことが嘘だったかのように。友達が多いのは悪くはないが数より中身、いわば真剣度が大切だ。これからも友達とはいい距離を保ち関わっていきたい。いなくなるとただただ生き辛くなる。

2019年3月8日金曜日

Novel in 2019 ⑩ ファーストラブ/島本理生

2019.3.8

ファーストラブ/島本理生


娘が父親を刺して、殺した。この事実の背景を、臨床心理士である真壁由紀の目線から解き明かしていく。
   人が人を殺す理由は様々だ。加害者側が悪いのか、それとも被害者側に殺されても仕方がない理由があるのか、一見してわからないこともある。三つ子の魂百までと言われるほど、幼少期の親のあり方、子供への立ち振る舞い、教育環境などは子へ影響する。親からは当たり前と言われたことが、世間で否定される。その時、子はどうすればいい。自分を否定し始める。周りには親しかいない。頼ると怒られる。子は演技をする。辛い演技を。私は何も気にしてないよ、と。限界が出てくる。できない自分に苛立ち、そして自分を傷つける。助けのないままそれは習慣化され、やがて子は、、
    真壁由紀も負を抱えていた。だが、夫の我聞やクリニックの院長に出会い、人生の航路が変わった。10代の1人旅を、自分探しと茶化すことがある。自分探しというのは、自分は本当は何が好きなのかを探すという意味もあれば、自分自身を認めることでもある。自分とは何か。それがわかって初めて進むべき道が開く。こう書いてるものの、道に迷ってばかりなので、自分は口ばっかりだなと、自分を認めてみる。
    決して幸せな物語ではなかったが、著者の強い思いが感じられる、学ぶべき点が多い小説だった。

    

   

2019年3月3日日曜日

Novel in 2019 ⑨ 真実の10メートル手前/米澤穂信

2019.3.3

真実の10メートル手前/米澤穂信


 









 脳がブドウ糖を欲している。読み終えた後にそう思った。ただこういった没入は良い疲れであり、読後、外へ出たら風をいつも以上に気持ちよく感じた。
    この本は6つの異なる短編で構成されているが、記者である太刀洗万智が全編に登場し様々に躍動する。切れのいい状況説明と人物間の会話により、淀みなくストーリーが流れ、次々とページがめくられる。ミステリー特有の人を引き込む力がいかんなく発揮されている感じがする。
    各編、太刀洗万智以外の中心人物の一人称により展開していく。その中で彼女とやり取りをする人物が彼女に対して何を感じ、何を思うのか、その心の読みが面白い。初め彼女と接する人物はみなめいめいにして、彼女を訝り、呆れた態度を取るが、物語が進むにつれて己の誤りに気づき、彼女の聡明さに感心し始める。彼らは彼女に対しての誤解を恥じるというよりは、その思考の切れ具合に畏怖を抱く。水戸のご老公が悪を成敗した時のような快活さがあり、心がスッキリする。
    作者は岐阜出身のため東海地方が舞台となるのも面白い。素直に別作品も読んで見たいと思う。


2019年2月28日木曜日


カワサキメグロSG

隼とカワサキメグロSG  2013

  ついにSGを手放す時が来た。大学4年生の時に手に入れた時、すごく嬉しかった記憶がある。その理由はそれまで乗ってたバイクは70年代生まれだったが、初めての60年代のバイクだったことだ。70年代のバイクは若干だが現行車に通じるところもあったりして、そこまで古い印象はなかったが、60年代だと流石に古いと感じるところが増える。
   旧型バイクを知るきっかけにもなった。たくさん故障してくれたおかげである。こいつとは北は東京、南は鹿児島まで走った。ありがとう。また会う日まで。近い人に譲ったのでまた会うだろうけど。

2019年2月24日日曜日

Novel in 2019 ⑧ トラペジウム/高山一実

2019.2.24

トラペジウム/高山一実







  今話題の小説だ。帯文に中村文則さんの紹介があったことや、雑誌ダ・ヴィンチで作者本人がこの小説の成り行きなどを説明しており、少し心惹かれるものがあったので読んでみることにした。
 ストーリーは主人公東ゆうの目線で進められてゆく。アイドルになるために様々な策を講じ、四方八方へ奔走する主人公だが、理想と現実の差に時折落胆する。高校生特有の根拠のない自信が自由に描かれていて微笑ましくなる。己のエゴを通し、仲間を悲しませるところも青春を感じる。目標を持って行動することは、今でこそ必要性を感じているが、子供のうちから明確にすることは確固たる強い意志がないとできない。主人公のようにあの黒髪のアイドルのようになりたいんだ!と順序だてて行動する人と、のうのうと過ごし週末はただブラブラと遊んでいた人の違いはなんだろうか。考えても明確な答えは出ないが、どれだけその時に自分の人生と真剣に向き合ったかどうかかもしれない。もちろん大人のように理屈からではなく、感情から生まれる行動だとは思うが。
 幼少期から高校生頃までに抱く目標と、社会人となりそれなりの人生経験を積んでからの目標は、同じ目標ではあるが、達成できる速さが異なると思う。経験は積んでいいこともあれば、同時に重荷にもなる。頭にリスクヘッジがよぎるのだ。そして当の本人はリスクヘッジだというが、それはただのやらない言い訳ともいえる。だから近道のいばらの道を通らず、安全だが遠回りの舗装路を選ぶ。ただこの遠回りには体力がいる。並の遠回りではない。大器晩成だなんてカッコつけて言えるのは、目標地点に辿り着き、なおも走り続ける体力が残ってる人だけだろう。
 この小説は作者の体験が織り込まれていて、強い意志が感じられた。自分の場合はどうだろう、遠回り道の中間地点くらいにはいるのだろうか。その答えがわかるまでは自分を諦めないようにしたい。

 

2019年2月17日日曜日

Novel in 2019 ⑦ その先の道に消える/中村文則

2019.2.17

その先の道に消える/中村文則










 ある緊縛師の話である。中村さんは人の様々な心理状態から生まれる些細な行動をいつも上手く表現している。例えば物語の中で、会計中に財布の中に必要な小銭がすぐ見つかっても少し探すふりをしてから小銭を渡した、という場面がある。こうした小さな奇行は日々自分の心理と向き合い、細かな観察をしてるこそ描けるのではないかと思う。こういった描写が物語の中で幾重にも重なり、緊迫感や緊張感を与えていると思う。
    もうひとつ印象に残ったフレーズがある。人が何かミスをするのはただの不注意と思われるが、実は無意識の中の願望がそうさせたという描写だ。仕事中のミスにより、様々な問題が発生するが、時たまこれを間違えたらこの先の結果はどちらへ転んでいくのだろうか、という興味が湧くことがある。例えばジェンガというゲームは木片が重なりあってできた塔をいかに崩れないように木片を抜いていけるかを争うわけだが、時に思いっきり破壊したくもなるのはそういう心理からだろうか。社会性や秩序を重んじるのは生きてゆく中で必要なことだが、やはり煩悩だらけの人間、たまにはが息抜きが必要となる。実社会ではそれが犯罪という形で為され、人生が終わりかけることもあるが、小説というフィクションの中ならそれが可能だ。
   人間の様々な心理状態から転じて起きる行動をよく観察すること。この作者からはいつも色々なことを学ぶ。

get a life again

  

2年前から動かなくなっていたメグロSG。走ってる途中いきなりクランクの方からカラカラ音がしたので、恐らくそういうことだ。スペアのエンジンがあったので、そのままスワップすることにした。

キャブの面研、右クランクケースのガスケット作製、タペット調整など色々してやっとこさ火入れの準備が完了。しかし火が飛ばない。プラグから始まり、プラグキャップ、プラグコード、イグニッションコイル、フィールドコイル、ポイント、コンデンサーなどをチェックしても飛ばない。Why…その日は解決せず、次の日徹底見直ししてたら火が飛んだ。恐らくポイントの面上がまだ荒れてたのか、もう一度綺麗にペーパーがけしたのが良かったのかもしれない。それにしても苦労した後のエンジン始動は何度やってもたまらない。素直に嬉しい。あとはタンク取り付けて細かいとこ詰めて行くだけとなった。楽しみ




2019年2月10日日曜日

Novel in 2019 ⑥ 新釈 走れメロス/森見登美彦

2019.2.10

新釈 走れメロス/森見登美彦


今年3冊目の森見作品。簡単に言うと文学史に名を連ねる小説家5人の作品を作者の新解釈でリメイクしたものだ。あくまで各作品の根幹は継承しつつも、アレンジメントは森見ワールド全開だ。
   この作者が描く世界は基本的に京都が舞台となることが多い。京都が好きな人は物語と共に頭の中で風景を描けるので、その場の臨場感を楽しむことができる。京都へ行く度に思うが、京都は独特な町だ。神社仏閣、町屋、数寄屋造の家屋など、確かな歴史を刻んでおり日本の伝統文化ここにありと言えると思うが、今の暮らしに馴染みのないものが多くて純日本というよりは異世界とも思える。五木寛之氏もある雑誌で「外国に来たような感覚」と話していたので、そういう感覚で町を見回ると確かにそう思える。
    もうひとつ、この作者の特徴と思われるところは現代ではあまり使われない言葉を多用しているところだ。辞書片手に読み進めざるを得ないが、日本語でしか表わせないような絶妙な、痒いところに手が届くとでもいうような表現が多用されている。これは作者が次世代へ素晴らしい日本語表現を伝えたいというメッセージなのではないかと思って読み進めているが、なんともありがたい気持ちになる。
    英語を覚えたり、世界を知ることはグローバル社会の中で確かに必要なことだと思う。だがまず自国の文化、言葉を知るべきだと思う。英語より国語が優先だ。日本の心を知ってこそのグローバルだと思う。日本人は控えめだから心の中だけで思ってる人も多くいると思うが、外国の人と比べると愛国心が見えにくい。右寄りの発言は何かしらの信者と思われる傾向が表現の自由を奪っているかもことも一因かもしれないが。でも世界各国から日本に興味を持ち訪ねて来る人に日本の素晴らしさを答えられないのは少し恥ずかしい。世界情報共有により様々な価値観が画一化されつつある今の地球上で、もう一度自国を見直し、独自の色を捉える必要がある。

2019年2月4日月曜日

Novel in 2019 ⑤ 夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

2019.2.4

夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦



  会社の後輩から拝借した今年2冊目となる森見登美彦さんの作品である。世間ではアニメ化して話題を呼んだらしいが、僕には初見の本であった。
   まず作品名に惹かれるものがある。語呂がいい。自由律俳句のようなリズムがあり、入口から期待が膨らむ。主人公の黒髮の少女は天真爛漫で一見大人しそうに思えるが、実は行動力のある性根から素直な子だ。誰もが惚れるとはいかないまでも、純粋で己に忠実であり心を動かされる。老若男女誰であろうと、人が一心不乱に何かに取り組む姿は美しい。キラキラと光輝く高貴なものを見ているような感覚になる。暗礁に乗り上げ、己の意思通り前へ進めない不甲斐なさを感じている時など、そのような光景は心のシミを漂白してくれる。
  そんな黒髮の少女にあっちこっち踊らされる1人の男(勝手に踊っているともいえる)が、この物語のもう一つの軸を担う。彼は己の願いを叶えよう奔走するも、ことあるごとに撃破される青春に充ち満ちた男だ。このような男には情を抱く。
  今思えば駆け引きしている時が1番楽しい時間だったなどというのは、辛うじて所帯を持てた男の自惚れた戯言に過ぎないが、学生時代というのは実にいい時間だったと改めて思う。ここまで自由に己を試せる時間は、一旦仕事を始めてしまうとなかなか持てるものではない。時間を作る努力をするか、何かを失うリスクを背負えば決して難しいことではないが。
   未来をナイスに闊歩するためには、とにかく今を諦めないことだ。「不撓不屈」これは我が座右の銘だが、この小説にも「虚仮(コケ)の一念、岩をも通す」という泥臭い一文が登場する。これは未熟な人でも一途に努めればやがては成就するという意味を成す。
   物語は黒髮の少女と男の未来が動き出す時に終焉を迎える。この男には勇気づけられた。僕も愚かなりに泥臭く明るい未来のために日々の妄想に努め、一歩ずつ歩みを進めて行きたい。

2019年1月23日水曜日

Novel in 2019 ④ スマホを落としただけなのに/志駕晃

2019. 1. 23


スマホを落としただけなのに/志駕晃


  月並みな話だが、現代はスマホに支配されている。何をするにも側にいるし、これがないと不安でしかたない人もいる。
  今年31歳の僕が携帯電話を持ち始めたのは中学2年生の時で14歳だった。持ち始めた年齢として、現代では遅いかもしれないが、ひと世代前からしたら早いというところだろうか。当時の携帯電話には、電話、メール、それとグローバルとはまだ言えない小さなウェブサイト内を、ゆったりと閲覧する機能くらいしか備わっていなかった気がする。当然役に立っていたし、あれば便利だったが、無くても困るものではなかった。生活の中を占めるウェイトはまだ少なく、あくまで生活の補助役であったと思う。ところが20歳頃、iphoneが初めて日本に伝わり…今に至る。
  読み進めて行くに連れて、まず感じたのは恐怖である。見えないものに対して人は恐怖を抱きにくいと思う。それは実感がないから。ただ見えないものが徐々に近づいてると知れば、それは見える恐怖よりその度合いが増すのではないか。見えないからどう対象していいかわからない。クラッカー、サイバー攻撃など、ネット上でのしかけに対して無能な人は無抵抗にならざるを得ない。作者は癌細胞が人知れず死を手繰り寄せるように、徐々に迫る恐怖を緻密に描写している。専門的な言葉も、理解しやすくする工夫がされているのか、知識が浅はかな僕でも、飛ぶように読むことができた。
  スマホ依存は今や現代病の一つである。図書館へ行く時、携帯電話を車に置いて行くことがよくあるが、ものがないと見ないものだ。(もちろん物理的に見れないのだが)このように警鐘を鳴らしてくれたことは、スマホ依存な人が苦手な僕からしたら感謝したいところだが、もうそれらがない時代に戻ることは無理だろう。いや、それよりまだ誰も知る由も無い、人の存在さえも脅かすテクノロジーが未来には待っていると思う。時代は加速し続けている。


2019年1月20日日曜日

novel in 2019 ③ となり町戦争/三崎亜記

2019. 1. 20

となり町戦争/三崎亜記


表沙汰にはならず水面下のみで進む戦争や、該当国同士ではない代理国間での戦争など、戦争には色々な形態がある。戦争に限らずあらゆる事象は目の前では起こらない限り、または自分の周りへの影響が無い限りは実感が持てないことが多いのではないか。例えば中東での争いで自爆テロにより数十名死亡と報道されても、僕ら一般人は大変だなと思うばかりで実感を持てない。大変なのはわかるが、現実的に何もできない。(行動次第では可能だと思うが僕はできない)
  そのようなもどかしさをこの小説では説明しているのだろうか。少なくとも僕はそう読み取ったが、ストーリーは平たく展開が淡々としており、そろそろ盛り上がりが来るだろうかと思ってる間に話が終わってしまった。実感の無い戦争を謳う前に、このストーリー内容に実感を持てないまま終わってしまった印象である。
    異なる意味でのもどかしさを感じてしまったが、このような読後感を持たせるのが作者の目的なら、僕は素直に嵌ってしまったことになる。

2019年1月13日日曜日

novel in 2019 ② 熱帯/森見登美彦




2019. 1. 13

森見登美彦さん作の「熱帯」

  入院期間を利用して読むことができた。そこは入院に感謝…
  話の概要をダ・ヴィンチで見かけたので読んでみたくなったのだが「どういった小説かは読んでみてもらわないと説明できない」というのがこの小説についての作者からのコメントであった。読み終えて、今こうして文章を走らせているが、作者の言う通り型にはまらない何とも形容し難い小説であった。話の鍵を握るのは「千一夜物語」という実在する物語だ。(小説を読んでいる合間に調べて初めてこの本について知った)読む進めていくと、物語の巧みで奇妙な展開に脳が熱くなってきた。様々な大きさや形の情報が、次々と目の前を通り過ぎて行き、脳内の短期記憶倉庫は整理しきれずごちゃごちゃである。我が読書脳のメモリ不足を痛感した次第だ。これが現実なのか夢なのか、作者の術中に嵌められた感じがするが、小説を読む時の心地良さとしては悪くはない。
   物語自体の本質とはズレるが、京都を愛でる人には嬉しい描写が現れる。東山、南禅寺付近の描写は情景と共にページをめくることができた。京都が呼んでいる。

   入院中の病室で「熱帯」というタイトルの本。時には右腕にセファゾリン点滴を打ち込みながら片手で、時には集団部屋という監獄にも似つかない異空間で人生を散々謳歌した後ここへたどり着いたであろう3人のおじきのいびき・独り言・イヤホンをしながらの笑い声に苛まれつつ読み進めたこの本について作者は「熱帯と本というものはかけ離れている」と、雑誌内でコメントしていた。病室もまた熱帯とは対の場所にいるような気もする。そんな居心地で読み進めた本は、初めての入院ということも重なり、生涯忘れ難い1冊となるだろう。それにしても京都行きたい。
  


2019年1月7日月曜日

beautiful stationery & Art..



hang out with good old friend T to ALASKA BUNGU in Gifu. (mighty stationery shop)

旧友Tと岐阜市のアラスカ文具へ。スタンダードなドイツ製や、あまり見かけないヨーロッパ製の文具など多数取り扱っており、来る度とても楽しくなります。今日は月光荘のヌメ革ペンケースとスケッチブック、Rotringのtikkyシャーペンとボールペン、シャチハタのエルゴラインを購入。ペンケースは経年変化が楽しみ。12月に入ったばかりという店員さんが面白かった。



after that, heading for “Alvar Aalto Second Nature” in Nagoya Art Museum.

その後はフィンランドの巨匠、アルヴァ・アールトの展示会へ。自分の思いを身の回りのものにデザインとして落とし込むことは、生活がより豊かになるんだろうなあ。よりベターな暮らし。




2019年1月5日土曜日

novel in 2019 ① 羊と鋼の森/宮下奈都

2019. 1. 5.

小説家いいな。
そう思わせてくれた宮下奈都さんの

「羊と鋼の森」


自然な言葉と無理をしない比喩表現が心地よく体に入ってきた。非現実的過ぎず、あくまでニュートラルな良さがある。ピアノの一部は羊毛と木でできているのでそれを森と捉え、弦は鋼である。ピアノの調律や演奏の中にまるで自然の中を歩くような心地よさがあるというのは、筆者の実体験が元になっているのであろう。色々な趣味や仕事があるが、原点回帰というか、すべては自然が元にあると常日頃感じてしまう。むしろ母なる自然と言われるように人間の心はぼくらが気づかないところで、自然への回帰をひしひしと促してるのではないかと考える。文明が暮らしのあり方を日々変えてはいるが、主体はあくまで自然なのだろう。