新釈 走れメロス/森見登美彦
今年3冊目の森見作品。簡単に言うと文学史に名を連ねる小説家5人の作品を作者の新解釈でリメイクしたものだ。あくまで各作品の根幹は継承しつつも、アレンジメントは森見ワールド全開だ。
この作者が描く世界は基本的に京都が舞台となることが多い。京都が好きな人は物語と共に頭の中で風景を描けるので、その場の臨場感を楽しむことができる。京都へ行く度に思うが、京都は独特な町だ。神社仏閣、町屋、数寄屋造の家屋など、確かな歴史を刻んでおり日本の伝統文化ここにありと言えると思うが、今の暮らしに馴染みのないものが多くて純日本というよりは異世界とも思える。五木寛之氏もある雑誌で「外国に来たような感覚」と話していたので、そういう感覚で町を見回ると確かにそう思える。
もうひとつ、この作者の特徴と思われるところは現代ではあまり使われない言葉を多用しているところだ。辞書片手に読み進めざるを得ないが、日本語でしか表わせないような絶妙な、痒いところに手が届くとでもいうような表現が多用されている。これは作者が次世代へ素晴らしい日本語表現を伝えたいというメッセージなのではないかと思って読み進めているが、なんともありがたい気持ちになる。
英語を覚えたり、世界を知ることはグローバル社会の中で確かに必要なことだと思う。だがまず自国の文化、言葉を知るべきだと思う。英語より国語が優先だ。日本の心を知ってこそのグローバルだと思う。日本人は控えめだから心の中だけで思ってる人も多くいると思うが、外国の人と比べると愛国心が見えにくい。右寄りの発言は何かしらの信者と思われる傾向が表現の自由を奪っているかもことも一因かもしれないが。でも世界各国から日本に興味を持ち訪ねて来る人に日本の素晴らしさを答えられないのは少し恥ずかしい。世界情報共有により様々な価値観が画一化されつつある今の地球上で、もう一度自国を見直し、独自の色を捉える必要がある。
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